「弘毅」解説ページ
とあるオーナー社長のTさん、
社員の結婚式に、主賓として出席したとき、
必ずといっていいほど引用するのが次の言葉。
人の一生は重荷を負て遠き道を行くが如し。
急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。
心に望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思え。
勝事ばかり知りて負くる事を知らざれば害その身にいたる。
己を責めて人を責むるな。及ばざるは過ぎたるにまされり。
そして、この後に自らの結婚生活の経験・体験談を挟んで、新郎・新婦を始め、ご両家への祝辞とするのである。
しかし、Tさんがこの徳川家康の遺訓、それが論語をもとにつくられたものであるということには気づいてなさそう?
ということで、このもととなった言葉を、『論語上』 吉川幸次郎(著) 中国古典選3 朝日文庫の「泰伯第八」からの引用を主に、訓読(読下し文)とその現代訳、ならびに解説を読みやすく、わかりやすい形に加工してお届けします。
まずは、訓読、すなわち読下し文です。
曽子(そうじ)曰(い)わく、
士(し)は以(も)って弘毅(こうき)ならざる可(べ)からず。
任(にん)重(おも)くして道(みち)遠(とお)し。
仁(じん)以(も)って己(おの)れが任(にん)と為(な)す。
亦(ま)た重(おも)からず乎(や)。
死(し)して而(しか)して後(のち)已(や)む。
亦(ま)た遠(とお)からず乎(や)。
次に、その現代訳です。
曽子が言った。
士(教養のある人)は、心が広大で意志が強く、しっかりしていなければならない
責任は重大であり、その道のりも遠い。
それは仁という道徳の実現を任務(使命)とするのであるから。
それこそ重大なものではないか。
そしてまた、死ぬまで努力し続けるのである。
その道のりは、なんと遠くはるかなことではないか。
続いて、吉川博士の解説です。
・ずっと記録されてきた曽子の言葉のうち、この条はもっともすぐれる。あるいは、「論語」全部の中でも、もっともすぐれた条の一つであろう。
・「士」の字の原義は、家老でない若手の官僚をさすが、ここでは、ひろく教養ある人間と解していいであろう。
・「弘」とは、ひろい包容力、「毅」とは、強い意志。「士」たるものは、それらを持つ責任があり義務がある。なんとなれば、その任務は重く、その人生行路ははるかであるからである。
・「仁以って己れが任と為す、亦た重からずや」。人道の実践と普及を、自己の任務とする。それこそ任務として重大なものではないか。
・その任務は、いのちある限りは、解消されない。つまり「死して而して後已(や)む」。しからばその工程たるや、はなはだ、はるかでは、ないか。
・この条は、もっともすぐれた有名な一条であるだけに、解釈は、以上のように一定している。
・「死して而して後已む」、すなわち、人間は、生きている限り、使命をもっており、その使命は、死にいたるまでは、解消されないというのは、儒家の人道主義の積極性を、よく示す。
う~ん、冒頭のTさんの祝辞は、吉川博士の解説を借りれば、
新郎新婦は教養豊かな人間であり、
ともに、ひろい包容力と、強い意志をもって、
はるかな人生行路をゆくに、愛の実践と普及に努めよ、
命ある限り、愛の実践と普及を怠るな!ということになる。
んんっ?
だとしたら、愛の実践と普及を名目とした浮気奨励の言葉!?
ともとれる(笑)
しかし、それでは結婚式における主賓の言葉として相応しくない。
では、Tさんの祝辞をどのように解釈するか?
「死して而して後已む」とは、新郎新婦ともに、命ある限り愛の実践と普及に努めて添い遂げよ!?
おぉー、凄い !!!
Tさんは、家康の言葉のみならず、出典の意味、すなわち論語の意味まで理解し、自家薬籠(やくろう)中の物にしていた?
ちなみに、「角川新字源」にて、この条の語句を検索すると次の4点に遭遇した。
やっぱり、有名な一条!?
【士不可不以弘毅】しはもってこうきならざるべからず 士は、心が広大で強く、しっかりしていなければならない。〔論・泰伯〕
【弘毅】こうき 度量が大きく意志の強いこと。〔論・泰伯〕
【任重而道遠】にんおもくしてみちとおし 背に負う荷物が重くて、行くべき道が遠い。士たるものの責任は重大で期間が長いことのたとえ。〔論・泰伯〕
【死而後已】ししてのちやむ 死んだら、そこではじめてやめる。死ぬまで努力する。〔論・泰伯〕「仁以為己任、不亦重乎、死而後已、不亦遠乎」
では、あなたにおうかがいします。
あなたが死ぬまで努力しよう!としているものは何ですか?



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